ラムナン硫酸の整腸作用

 

背景と目的

これまでにラムナン硫酸(RS)はゼブラフィッシュを用いた実験から、抗肥満効果を有する可能性が示されていました。肥満と腸は密接な関係を持つことが知られており、ラムナン硫酸の機能解明の一環として、ヒトでの整腸作用について調べました。

実験内容

1)  ラムナン硫酸のマウスにおける抗肥満効果についての検討

2型糖尿病モデルであるNSY / HOSマウスを用いて、通常食群(ND)と高脂肪食群(HFD)に分け、さらにそれぞれRSなしの群とありの群に分けました。4週間の給餌後、RSは高脂肪食群の体重増加を抑制する傾向を示しました(図1A)。 体重の抑制と一致して、血漿トリグリセリド(TG)と総コレステロール(TCHO)についてもRSによって有意な抑制および傾向が見られました(図1B, C)。 さらに、空腹時血糖(FBG)の抑制傾向も見られました(図1D)。 糞便分析では、RSは高脂肪食群の糞便重量とカロリーを有意に増加させました(図1E, F)。

図1.マウスにおけるRSの抗肥満効果

 

 

2) RSは便秘傾向の被験者の症状を改善しました

上記の体重増加抑制や血中脂質の低下といった結果は糞便排泄の促進によるものであるという仮説を立て、便秘傾向への有効性について臨床試験を行いました。排便頻度が比較的低い(週に3〜5回)38人の健康なボランティアの方に協力していただき、RSのグループとプラセボのグループに分けました。2週間の試験期間であったためか、マウス実験とは異なり、RSによる体重、血漿TG、TCHOの減少は見られませんでした(図2A, B, C)。血糖値はRSによる減少傾向が見られ、マウス実験の結果と一致していました(図2D)。また、RSは有意に排泄頻度を増加させました。さらに、1週間あたりの排泄日数も増加させました。これらの結果は、マウスの実験で観察された結果と類似しており(図2E、F)、慢性便秘への有効性が期待されます。

 

図2.便秘傾向の被験者のRSによる症状改善

 

 

3) RSは被験者の消化管内マイクロバイオータ(細菌叢)組成を変化させました

Chao1インデックスを使用してα-多様性を評価し(図3A;グループ間で差なし)、UniFracマトリックスを使用してβ-多様性を評価しました。 門レベルでは、Firmicutes門はRSによる減少傾向を示しましたが(図3B)、Bacteroidetes門はRS群とプラセボ群の両方で増加しました(図3C)。Firmicutes門の主要な網であるClostridiaは、RS群では低下傾向を示しました(図3D)。また、 RSは Negativicutesを増加させる傾向を示しました(図3E)。  Negativicutesの網では、4目検出され、そのうちAcidaminococcalesVeillonellalesはRSによってわずかに増加しました(図3F, G)。

 

図3.消化管内マイクロバイオータの変化

 

 

4) サブクラスター分析により、RSの有効性が高い被験者が示されました

表現型パラメーター(性質、個性)がヒトのRS有効性に影響を与えるかどうかを評価しました。ボディマス指数(BMI)が被験者の平均(21.7)よりも高い方は、摂取2週間後に排泄頻度の有意な増加を示しましたが、平均より低い方では増加が見られませんでした(図4A, B, C:変化量)。 また、週あたりの排泄日数についても、高BMIと低BMIの群で同様の結果を示しました。 それに対応して、平均よりも体重が多い被験者(59.4 kg)についても、排泄頻度と日数の有意な増加を示しました。 その他の年齢、体長、血圧、脈拍数、性別などのパラメーターはRSの有効性に影響を与えず、BMIおよび体重が高い方が有効性が高いことが示されました。
Mancabelliらは便秘の人において、腸内細菌叢の多様性が高いことを報告しています。そこで、被験者を腸内細菌叢の多様性が平均より高い群と低い群の2つに分けました。RSは摂取後2週間で高多様性群の1週間あたりの排泄頻度を有意に増加させましたが、これは低多様性グループでは観察されませんでした(図4D, E, F:変化量)。週あたりの排泄日数についても、多様性の高い群と低い群で同様の結果を示しました。

 

図4.RSの有効性が高いパラメーター(BMI(および体重)、腸内細菌叢の多様性)

 

 

5) RS投与における代謝機能経路について

被験者の腸内細菌叢において、RSによる機能的変化を解明するために、被験者の腸内細菌叢の16srRNA-seq分析を行いました。PICRUStを使用したメタゲノミクスプロファイリングにより、KEGG経路の機能的変化が起こることが明らかになりました。これは、便秘傾向改善の効果に関与している可能性があります。

 
(データ:Scientific Reports 2021-7-5, DOI: 10.1038/s41598-021-92459-7)